tannenbaum居眠り日記💤

観戦者の目による、おもに自転車(おもにシクロクロス)関連のすみっこネタブログです。

泥とわたしを繋ぐもの(2018年世界選手権のタイヤ選択をたどる)

盛り上がった世界選手権が終わりました。前橋のレース会場でも「昨日のレース見た?今晩のレースはどうなるだろう」と話題にする人が多かったです。現地観戦弾丸旅行から帰還した自称「にわかファン」のS氏(以下「自称にわかS氏」といいます。)から「今回のタイヤチョイスの話題は記事にでていたか」と聞かれたので探すと、CXマガジンにありました。

www.cxmagazine.com


今回のVan Aertの勝利はシーズン中に出るレースを絞り体調ピークを世界選に持ってきた「ピーキングの勝利」と言われていますが、機材音痴の自分でもタイヤの選択はシクロクロスと切っても切れない話題なのでよっこいせと読んでみました。
記事はこんな感じ。

【タイヤゲーム:タイヤ変更だらけの世界選】

・土曜日(男子ジュニア、女子U23、女子エリート)の勝者3名は全員ChallengeのLimusだった。
・日曜日のU23 の勝者IserbytもLimus。


・女子エリートの勝者、カントは普段はFMBのタイヤを使用しているが、世界選ではChallenge のLimusを使っていた。


・男子エリート勝者のVan Aertは自宅に広大なタイヤ用の地下室を有するタイヤマニアな知将Niels Albertと色々相談していたようで、事前にDugastベースにMTB用26インチタイヤのトレッドを使用した特別タイヤを使用するのではと話題になっていた。が、当日の選択は特製タイヤではなくDugastのRhino, 30mmという細いもの。

・通常ロードレースでは細いタイヤを使用して抵抗を軽減しようとするが、シクロクロスはその反対の傾向があり規格上限の33mmの太いもので凸凹対応や砂地への接地面を増やすことにメリットがあるとされる。

・ただし、泥でやわらかなコンディションの場合は逆に細いタイヤがよいとされてきた。フレームとの間にクリアランスを稼げ、柔らかな泥の下の固い層にグリップしやすく、また、地面が柔らかければショック吸収も必要ではない。

・Van Aertはもともと「自分は少数派の細いタイヤを好む派」と語っていた。

 ・一方Van der PoelはいつもDugastのRhinoを使っている。昨年の世界選手権で4度のパンクに見舞われたが、それを代えることはしてこなかったほど。ところが、今回のスタート直前に彼はChallengeのLimusを装着したバイクに交換していた。
・ヨーロッパのトッププロは日頃のタイヤスポンサーに米国ほど縛られることはなく、最終的には自費で自分の望むものを選択することができるようだ。
・レース後、Van Aertは「今日、タイヤが轍の幅より狭かったので轍の中でスライド(”sliding through") させ走りやすかった」とコメントしたが、勝因がタイヤにあったかというと「今年の世界選のレースはタイヤより脚の問題だ。」と語ったのでそれ以上の議論はできないで終わった。


 自称にわかS氏に記事の概略を伝えると異論ありでした。
【異論その1】

・カントはいつもFMBだし、FMBのインスタグラムではカントの世界タイトルにお祭り投稿だった。
・当日のバイクの写真を見たがタイヤのサイドの色はデュガスのようにみえる。デュガス独特のロゴがあるかどうかは泥で見えない。

  【異論その2】

・Mathieu Van der Poelがスタート直前にバイクを替えていたのは自分もスタートライン真横にいたので見た。でも自分の写真を見るとサイドにデュガスのロゴがみえる。

フロントローはToon Aerts以外全員デュガスとサイドに書いてある。Sweeckのタイヤは見えない。

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(Photo by: Sさん:世界選手権男子エリートのスタートライン)

自称にわかS氏はVIPチケット購入者だったので、スタートラインの真横かぶりつきで観られたのだった。すごいな。 

 で、わからないので欧州で何シーズンも闘ってきた辻浦さんにカントのタイヤについて聞いてみました。

【辻浦師匠のコメント】

・カントのトレッドはLimusにみえる。

・ベースにほかのトレッドを貼り替える事もあるからサイドでは判断できない。

・今回のコースはトレッドよりも幅のほうが重要。

・自分ならこのコースで33ミリは選ばない。

・日本では以前仙台の全日本のコース(菅生でしょうか?)がとても重い泥で、30ミリを宮澤選手と山本聖吾選手が使用した。当時、泥づまりの原因はフレームにあるという話が多かったが、その時ほとんどの選手は33ミリを使っていた。

・日本人選手は世界のトレンドに倣って33ミリを使うのが主流だが、日本人の脚力では抵抗が大きくなるデメリットもあるので32ミリというチョイスもあるだろう。また空気圧が高すぎでタイヤ幅を生かせていない場合が多くみられる。

・30ミリはハンドリングが軽くなる、轍をたどりやすくなるというメリットがあるが泥のときに30ミリが必ず良いかというと、刺さり過ぎても重くなるので、その場で試してみないとわからない。
・泥と言っても泥の層の底に石がある場合やコースレイアウト、レースのスピード域でタイヤ幅についてはどれが向くか変わってくるので、一概には言えない。

・オランダの世界選手権でAlbertが勝ったとき、30mmだった。 

・昨年のルクセンブルクでVan Aertが緑色のタイヤを選んで勝ったというのでやたらと話題になったけれど騒ぎすぎだと思う。

自分が思うのは、勝った人の機材が良いみたいな事になりがちだけれど、自分に合ったモノ見つけて使いこなした者が良いということになる。 真似も大切ではあるが。

はい、そうですよね。まあ世界選勝ったからといって一般人が自分も同じものを使いさえすれば勝てる、とは思わないでしょうけれども。要は自分に合ったものですね。
・そしてタイヤ幅はタイヤブロックパターン同様に重要ということで。
・ブロックパターンごとに各タイヤ幅のホイールそろえてスペアもとかいうと、ほんとモノ要りだし人員もたくさんいりますね。。辻浦さんはバイク3台、ホイール18本で参戦していたようです。

タイヤだけでは勝負は決まらない、でも調べるのが面白くなっちゃいました。 

 
【自称にわかS氏の再検証】

上記をS氏に伝えたところ、マチューの使用タイヤのトレッドがよく写ってる写真を拡大して調べたらしく、ノブの向きからしてチャレンジのライムスだと得心したらしい。やはり貼り付けたスペシャル仕様だったんですね。

・本人はにわかファンといって謙遜していますが、マニア魂が活躍するひと時であります。

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マチューのタイヤのノブ。上向き

(以下、Sさん提供)

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↑FMBのノブはZ型

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↑チャレンジのLimus ノブ上向き

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↑デュガスのリーノ ノブは下向き

 

そしてChallenge社HPでは特に自分の会社のタイヤのトレッドを使った世界タイトルのアピールはしていない。直接契約で提供したわけではないからでしょうか。

http://www.challengetech.it/news/en

ツイッターでは「うちのLimusの成功が雑誌の記事に出ていた」という言及はしている。

 

いっぽう、カントに供給契約しているFMBは大アピール。

契約スポンサーとしては契約選手に勝ってほしいので厳格に縛ることはしない代わりに(場合によってはスペシャルタイヤも作る?)タイトル獲得時にお抱え選手の優勝アピールができるということなのかもしれない。

 

【S氏発見のケビン・マイクルちょっといい話】

今回の検証作業(笑)中、S氏発見のマニアネタが提供された。今のところ他のメディアには取り上げられていないようだ。
・大健闘二位になったMichael Vanthorenhoutのタイヤのサイドには"K. P"の文字があったらしい。

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(S氏提供:K.Pのマークが。彼は32ミリだったのですね)

・S氏によるとこれは彼とMarluxのチームメイトであるベテランスター選手Kevin Pauwelsのマークで、実績ある人気選手が今回ベルギー代表から漏れたことで物議を醸したけれど、ケビンは自分が出場できない代わりに若きチームメイトにタイヤを貸したのではないか、との推測。
・Pauwelsのタイヤとアドバイスが後輩チームメイトであるマイクルの「金星」表彰台を呼び込んだとすると、なかなかいい話。レース前にPauwelsと共にあれこれ検討したのでしょうか。Albelt, Pauwelsが共に表彰台に上っていた時代からひとつ時が進んだ感がありますね。


泥と選手を繋ぐのは、タイヤだけでなく先輩から伝わるノウハウや技術、知識の存在もあるのかもしれませんね。 

 

 (辻浦さん、自称にわかSさん、ありがとうございました。)