英国で起きているバースト
「その後活躍する選手が増えた英国では、今シクロクロスシーンはどんな感じ?」2016年の夏、北京のUCIレースにチームスタッフとして来ていた英国人Liam君がチューリッヒの世界選に観戦に来ていたことを知り、帰国後、質問を投げてみた。
今回、英国勢がひとつの勢力となりつつあるのを目の当たりにしたのも理由。しばらくして熱心なメッセージが返ってきた。
(abemaさんから頂いた牛串の向こうのリーアム君の写真。現地では会えなかった)
ちなみに2016年に北京で立ち話したときの内容は愚痴まじりなもので、「英国のシクロクロスがどんなかって?一部の好きな人たちがやってる感じ。注目されず、レースにも選手にも予算が出づらく、国内のレースは公園利用のコースばかりで恵まれた場所は使えないんだよね。メリットといえばドーバー海峡を超えたらすぐベルギーに渡れることかな。」のようなものだった。
(2016年8月、北京のレース試走日)
そのころ英国はロードやトラックでは大国でもシクロクロスでは成績も出場選手数も目立たない「その他」の国の一つな印象(昔ロジャー・ハモンドがジュニアでタイトルをとったけれど)。マウンテンバイクの選手がぽつり、ぽつりと出場していたようなイメージ。女子のほうでニッキ・ブラマイヤーやヘレン・ワイマンとかは活躍していたけれど女子レースは今ほど脚光を浴びることがなかった。
その後国内でのシクロクロス競技の地位がアップしていく流れを目撃したリーアム君からのメッセージは以下の通り。
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「こんにちは、モミコ。日出ずる国のみんなは元気かな。
僕はぶっちゃけ、トム・ピドコックが英国の人たちのシクロクロスへの見方を変える大きな影響力を持ってると思ってる。
英国のシクロクロス界のバーストは、世間の人々がベルギーやオランダで英国人の若い選手がすごい成績を上げ始めたって気づいた時に起こった。君と僕が遭遇した16-17シーズンの北京の4か月後、英国人がシクロクロスの世界選でポディウムに登ったんだ。
(※エヴィ・リチャーズがZolderの世界選でその年初回のU23女子で優勝し、さらに翌年ピドコックが男子ジュニアで優勝)
例年シクロクロスの世界選手権は英国車連(British Cycling)がずっと重視してきたトラック国内選手権と同時期に開催されるんだけど、そのBritish Cycling https://www.britishcycling.org.uk/ のウェブサイトの見出しトップにトラックを差し置いてシクロクロスが出たときの驚きって君には判るよね!
25年ぶりの英国人によるシクロクロスの世界タイトル獲得ということでテレビ局でも取り上げられたんだ。
そのことがきっかけでそれまで普通の人たちに自転車競技の話をしようとしても彼らの頭に浮かぶのはまずツール・ド・フランスだったし、シクロクロスなんて僕らが言っても何のことやらわからない"no idea"という状況だったのが、一般にシクロクロスが知られるようになるきっかけになった。
英国人の若手選手の活躍が続いて、最近はベルギーのチームも英国人選手を採用し、この競技の世界の中心地でキャリアを築くチャンスを与えるようになってきた。それでより多くの英国人がこのスポーツについて知るようになってきているんだ。
英国車連はオリンピック種目を優遇するので、良い選手がシクロクロス競技を離れてしまう例を僕はこれまで沢山見てきた。個人的には、本当にその選手がやりたい競技を選択できるべきだと思うんだ。何週間か前英国車連は彼らのアプローチと競技間の公平性についてのアンケート調査を行ったけど、いいタイミングだと思うし、今回のピドコックのリザルトが大きなメッセージになって彼らがシクロクロスをもう少し重要視するようになるといいと思う。」
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(ロードで世界選U23ポディウムに上った後に参戦した今シーズンのピドコック。パリ・ルーべのエスポワールでは優勝している。記者会見ではミニ・サガンともいわれる彼の今後の進路について質問が相次ぎ、今後も冬はシクロクロスのレースに出場し続けるつもり、ということを繰り返していた。)
今年の世界選、英国は男子エリートでピドコックが2位、女子エリ―トでリチャーズが6位、男子U23 でキャメロン8位、女子U23 でアナ・ケイ3位、男子ジュニアマックグイーアが9位、女子ジュニアでクーザンスが4位、ネルソンが7位。どのカテゴリーでも英国ジャージが目につくようになった。
(エヴィ・リチャーズ。ボリューム感あるおさげ髪が目印。もともとマウンテンバイカーの彼女は昨年のオリンピック・テストイベントに来日していた。)
ピドコックとTRINITY RACINGでチームメイトのキャメロン・メイソン。U23 で8位。さわやか青年(に見える)
U23 女子の表彰台。小柄なアナ・ケイは優勝候補だった。
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北京で立ち話したときから隔世の感はあるけれど、リーアム君の話では国を挙げての振興策というのはなく、実質強い選手が出てきたので注目され、チャンスが広がってきているようだった。
米国のように毎年車連がヨーロッパキャンプと称して毎冬20人規模の選手団を送り込むというはなかなかできることではない。
やっぱり、ピドコックのような、目立った活躍をするスター選手が現れるのが競技の振興には一番効果があるんだろうか。
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当ブログは出す前の段階の下書きがたくさん溜まっている。昨日つらつら見ていたところ、2017年に次の下書きがあった。ここに出てくる村上選手はお兄さんの村上巧太郎選手のほう。
タイトル「5分18秒」(2017年の下書き)
http://www.worldcupcyclocross.be/wp-content/uploads/20171219_HZOL_EntryLists.pdf
・村上選手が出場予定の、Zolderのジュニアカテゴリーのエントリーリストを見ると、先日IKO-Beobank入りが発表になり、直近のワールドカップNamurのジュニアで3位に入ったBen Tulett (英国)の名前があった。
・同じNamurでは女子エリートでも男子U23でも英国人が勝利してUCIチャンネルのアナウンサー、アンソニーさんはご満悦だった。
・NamurのU23 で優勝したのは今年はじめのBieles世界選ジュニアで優勝しているTelenet Fidea Lions所属、目下若手の風雲児Tom Pidcock。30位で完走した村上選手との世界選でのタイム差はこの時5分18秒*1。
・Otley's Tom Pidcock can be part of a golden generation | Ilkley Gazette ←Pidcockが英国シクロクロスの黄金世代を担うのでは、という記事
・https://www.cxmagazine.com/photo-gallery-junior-u23-men-2017-world-cup-namur-eurocrosscamp ←そして米国はEuro Cross Campを組織的に続けている。
去年の夏、北京CXで話した英国人メカニックのLiamさんは「シクロクロスはトラックやロードに隠れ予算も少ない中、好きな人たちだけでなんとか頑張っている状況」、と愚痴っぽく言っていたが、その後シクロクロスでは小国だった英国が最近一つの勢力になりつつある。もともとトラック競技はじめ有力な自転車大国である英国と、日本を比較するのは難しいけれども。
・この5分18秒、今後村上選手や日本勢はどれだけ詰めてゆくことができるのだろう。
*1:PidcockはロードシーズンはTeam Wigginsで走ることが発表されている